取適法とは
取適法(正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律。中小受託取引適正化法ともいいます)は、これまでの「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)が改正されて名前が変わった法律で、令和8年(2026年)1月1日から施行されています。立場の弱い側が、代金の支払いなどで不利な扱いを受けないように、発注する側に守るべきことを定めています。
用語も変わりました。
| これまで(下請法) | これから(取適法) |
|---|---|
| 親事業者 | 委託事業者(発注する側) |
| 下請事業者 | 中小受託事業者(受注する側) |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
ビルメンテナンスの現場にも関わります。清掃、設備点検、警備などの協力業者に仕事を出す場面があるからです。この記事では、ビルメンに関わる「役務提供委託」を中心にまとめます。
ビルメンで対象になる取引
取適法の対象には、物の製造や修理の委託などいくつかの種類がありますが、ビル管理で関わるのは主に役務提供委託です(取適法第2条第4項)。「役務」とは、清掃や点検などのサービスのことです。
役務提供委託とは、他の人から請け負ったサービスの全部または一部を、ほかの事業者に委託することです。公正取引委員会・中小企業庁の「取適法テキスト」(令和7年11月版)には、次のような例が挙げられています。
- ビルメンテナンス業者が、請け負うメンテナンスの一部であるビルの清掃を、清掃業者に委託する
- マンション管理会社が、管理組合から請け負う管理業務の一部であるビルメンテナンス業務を、ビルメンテナンス業者に委託する
- 元請の建設工事業者が、発注者から請け負う建設工事一式に含まれる警備業務を、警備会社に委託する
つまり、「お客さまから請け負った仕事を、協力業者に出す」形が対象です。
対象にならないもの
- 自分で使うサービスの委託:テキストには、工作機械メーカーが自社工場の清掃を清掃業者に委託する例が挙げられています。他の人に提供するサービスではないため、役務提供委託には当たりません。
- 建設工事の下請:建設業者が請け負う建設工事を、ほかの建設業者に請け負わせる場合は、取適法の対象外です。建設業法に、同じような趣旨の規定があるためです。
なお、建設工事に当たらない修理(エレベーターや自動ドアの部品交換など)を、ビルメンテナンス業者が修理業者に委託する場合は、「修理委託」として対象になる例がテキストに挙げられています。
どんな会社の間の取引が対象か
取引の内容に加えて、発注する側と受注する側の会社の大きさで、対象かどうかが決まります。役務提供委託の場合は、次のとおりです(資本金の基準か、従業員数の基準のどちらかに当たれば対象です)。
| 基準 | 委託事業者(発注する側) | 中小受託事業者(受注する側) |
|---|---|---|
| 資本金 | 5,000万円を超える | 5,000万円以下(個人を含む) |
| 1,000万円を超え5,000万円以下 | 1,000万円以下(個人を含む) | |
| 従業員数(新設) | 常時使用する従業員が100人を超える | 常時使用する従業員が100人以下(個人を含む) |
従業員数の基準は、今回の改正で新しくできたものです。資本金が基準に届かない会社でも、従業員数で対象になることがあります。なお、役務提供委託のうち、運送、物品の倉庫での保管、情報処理に当たるものは、資本金の基準が別の数字(3億円・1,000万円)になります。ビルメンの清掃や設備点検は、この3つには当たらないので、上の表で見てください。修理委託(上で触れた部品交換などの修理)は、資本金の基準が3億円・1,000万円、従業員数の基準が300人になり、役務提供委託とは数字が違います。
発注する側(委託事業者)がしなければならないこと
| 内容 | ポイント |
|---|---|
| ①取引条件を明示する(第4条) | 発注したら直ちに、役務の内容、提供を受ける期日(期間)と場所、代金の額、支払期日などを、書面か電子メールなどの電磁的な方法で相手に示します。注文書でも契約書でも構いません。金額を具体的に決められないやむを得ない事情があるときは、算定方法を示すことでも足ります。毎回共通の事項は、あらかじめ示しておけば、その期間は「あらかじめ示したとおり」と示すことで足りるとされています(公正取引委員会規則) |
| ②支払期日を決める(第3条) | 役務の提供を受けた日から60日以内で、かつできる限り短い期間内に決めます。テキストによると、「○月○日」と具体的な日が分かるように定める必要があり、「納品後○日以内」のような定め方は認められません。「毎月末日締め、翌月○日払い」は認められます |
| ③取引の記録を残す(第7条) | 役務の内容、提供を受けた日、代金の支払いなどを書類か電子データに記録して、2年間保存します(公正取引委員会規則) |
| ④遅延利息を払う(第6条) | 支払期日までに払わなかったときは、受け取った日から60日を過ぎた日から払うまでの日数について、年14.6%の遅延利息を払います(公正取引委員会規則) |
してはいけないこと
委託事業者は、次の行為を禁止されています(第5条)。役務提供委託では、「受領拒否」と「返品」の禁止は当てはまりません。
- 代金の支払いの遅れ(支払期日を過ぎても払わないこと。支払期日までに現金に換えにくい手形などで払うことも、これに含まれます)
- 代金の減額(相手の責任がないのに、決めた代金を減らすこと)
- 買いたたき(同じような内容のサービスに通常支払われる対価に比べて、著しく低い代金を不当に決めること)
- 購入・利用の強制(正当な理由がないのに、自分が指定する物やサービスを買わせたり使わせたりすること)
- 報復(相手が、違反の事実を公正取引委員会などに知らせたことを理由に、取引を減らしたり止めたりすること)
- 不当な経済上の利益の提供要請(協賛金など、金銭やサービスを不当に提供させること)
- 不当な給付内容の変更ややり直し(相手の責任がないのに、内容を変更させたり、サービスを提供し終えた後にやり直させたりすること)
- 協議に応じない一方的な代金の決定(次の項で説明します)
値上げの相談があったとき
今回の改正で新しく加わった禁止行為が、協議に応じない一方的な代金の決定です(第5条第2項第4号)。
サービスの提供にかかる費用が変わった(人件費や材料費が上がった、など)場合に、受注する側が代金について協議を求めたのに、委託事業者が、次のことをして、一方的に代金を決めると、禁止行為に当たります。
- 協議に応じない
- 協議で相手が求めた事項について、必要な説明や情報の提供をしない
ここで大切なのは、値上げの要求をそのまま受け入れなければならない、という意味ではないことです。求められているのは、協議に応じて、必要な説明をして、一方的に決めないことです。条文の言葉でいえば、話し合いの手続きを守ることが求められています。
現場から:私の現場の発注と、値上げの相談
ビルメンテナンスの現場責任者として、私は現場で、協力業者への発注や管理を直接行っています。
- 発注は、基本的に注文書と請書を取り交わしています。業者ごとに、紙の場合と、電子契約サービスを使う場合があります
- 工事に関わるものや、金額の大きい請負は、契約書を締結しています
- 最近は、協力業者から値上げの相談が増えています。定期の契約でも、スポットの仕事でも上がってきます
この記事を書くために条文を読み直して、改めて確認したいと思ったことが2つあります。1つは、注文書や契約書に、役務の内容、提供を受ける期日と場所、代金、支払期日がもれなく書かれているかどうかです。もう1つは、値上げの相談を受けたときに、理由をよく聞き、こちらの事情も説明して、話し合う手順をきちんと踏むことです。
ビル管理の立場で知っておきたいこと
- 対象かどうかは、取引の内容(お客さまから請け負った仕事を出しているか)と、会社の大きさの両方で決まります。自分の会社がどちらの立場にも立つ場合は、発注するときと受注するときを分けて確認します
- 協力業者への発注書類は、法令の要件と照らして、記載事項がそろっているかを見直すと安心です。注文書と請書の形でも、内容がそろっていれば足ります
- 工事に当たるものは、取適法ではなく建設業法の対象です。工事なのか、保守・点検・修理なのかで、適用される法律が変わることがあります
根拠となる法令
製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)第2条(定義)・第3条(支払期日)・第4条(明示)・第5条(禁止行為)・第6条(遅延利息)・第7条(書類の作成・保存)に定められています(令和8年1月1日施行)。役務提供委託でも、資本金の基準が3億円になる役務は、政令で、運送、物品の倉庫における保管、情報処理と定められています。明示の方法、遅延利息の率、書類の保存は、公正取引委員会規則(明示・遅延利息の率・書類の作成・保存)で定められています。
違反した場合
禁止行為などの違反があると、公正取引委員会は、委託事業者に対して、必要な措置をとるよう勧告することができます(第10条)。また、取引条件を明示しなかったとき、求められても書面を交付しなかったとき、書類を作成・保存しなかったときは、違反した人に50万円以下の罰金が科され、会社にも同じ罰金が科されます(第14条、第16条)。
この記事は一般的な解説です。自分の取引が対象になるか、個別の判断が必要なときは、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口に確認してください。


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